第六章第六章パタパタパタパタ・・・ 「フィリルさーん・・・て、どうかしましたか?」 二階から駆け下りてきたヨシュアが目にしたのは、なにか真剣に考え込んでいるフィリルの姿。気難しい顔で、唇に指を当てたまま押し黙っている。 「ああの、フィリルさん・・・?」 再度声を掛けられ、フィリルはやっと顔を上げた。 「ああ、ヨシュア。すみません」 苦笑を浮かべたフィリルに、ヨシュアは心配そうに言った。 「あの・・・。どうかしたんですか?」 「いえ、ちょっとね。あ、ところで・・・」 ヨシュアは満面の笑みをたたえて、背中から「何か」を取り出した。 「はい!」 フィリルはソレをそっと受け取った。 「ああ、上手くいったんですね」 柔らかく微笑むフィリルの手には、黄色がかった色をした兎。 「それにしても、黄色なんて。よくこんな色が出ましたねぇ・・・」 心底感心しているようなヨシュアの言葉に、フィリルは兎を持ち上げた。 「ああ、コレ」 それから、フィリルは微笑んだままサラリと言った。 「失敗作なんですよ」 にこにこと定着した微笑を向けられ、ヨシュアは引きつった笑みを浮かべつつ。 (そ、そんなもの、師匠に・・・) などと思わずにはいられなかった。 一方、フィリルの方は。 軽く腕を伸ばし、(師匠のなれの果ての)兎を、一定の距離に離している。 (これって・・・) 苦笑気味の視線の先には、黄色い兎。しかも。 (威嚇してますよね・・・、どう見ても・・・) 前足の下で体を支えられているため、前足を動かしてはいない。 が、その後ろ足は激しく宙を蹴って、そのご立腹を露にしている。 「はぁ・・・」 突然のフィリルのため息に、ヨシュアは首をかしげた。 「どうかしたんですか?フィリルさん。今日、なーんかため息が多い気がする・・・」 フィリルはその表情をさっさと整えて、ヨシュアを振り返った。 「なんでもないですよ、気にしないで下さい。あ、それより・・・」 「フィーリールー!!」 二度目の声。 「あ、リースさん!おはよーございまーす!」 誰がどんなに慌てていようが、ヨシュアは必ず、誰にでも随分と明るい声をかける。 そして、リースがいつもヨシュアのペースに巻き込まれるのも、また事実。 「ヨシュア!おっはよーうvv」 その挨拶にヨシュアはにこにこと微笑む。 「あら、ヨシュア」 リースがその顔をまじまじと見ながら、口を開いた。 「なんか、フィリルの顔にそっくりねぇ。ま、感情がこもってるだけいっか☆」 フィリルはあえてその言葉を聞き流して、リースに聞いた。 「なにか、わかりましたか?」 フィリルは、兎を均等な長さで刈り取られている草の上に置きつつ、リースに訊ねた。 「あ!そうそう!」 リースは、ぱちん、と手を合わせて、フィリルの耳元に囁いた。 「うん、ちょっと・・・。ね、2人になれる?」 リースの目がヨシュアを窺っているの見て取り、フィリルは頷いた。 「ヨシュア。リースと大事な話があるから、ちょっと待っていてくれる?」 「え?別に、いいですけど・・・?」 ヨシュアは、突然声をかけられ、目を瞬かせた。 「それじゃ、ちょっと待ってて」 それだけ言うと、フィリルとリースはやや足早に森の中に姿を消した。 「大事な用ってなんなんだろ?・・・大体、僕のことなんて気にしなくていいのに」 ヨシュアは黄色い兎を抱きかかえつつ、首をかしげた。 ←Back Next→ ジャンル別一覧
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